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#06 ワークショップの内容

企画者レポート(全9回)

ワークショップは「わからなさ」への没入としての<体験>と,その体験を振り返る<省察>の二部構成から成る。新しい音楽に直面した時に感じる快・不快・驚き・戸惑いなど,あらゆる感情を削ぎ落とすことなく「自分なりの見立て」へと結びつけるための<体験>として,山本和智の「新作」に没入してもらう,というデザインである。ワークショップのための新作は『管理された非常事態と遊撃』Controlled emergency and Guerrilla (2020) である。この作品は謂わば劇中劇のような役割を担うと考えていただけると良い。

内容は次の通りである。

舞台上には指揮者用の譜面台と奏者用の椅子10脚。上手下手にある机には様々な楽器や道具が置かれてある。

受付を済ませた参加者は客席に着席する。

開演5分前に,スタッフである鐘ケ江(以下スタッフ)が参加者の前に現れ,携帯電話の電源オフなどの諸注意,まもなく開演する旨をアナウンスする。

時間になり,作曲家であり今回の作品の指揮を振る山本(以下指揮者)が参加者の前に現れる。指揮者は今から演奏する新作のコンセプトを話しはじめる。

今回の演奏者には「即興演奏をしてもらう」ということを伝えずに,ただ会場に来て欲しいとお願いをしている。自分の楽器も持たずに,本番用の衣装も来ていない。その中で,突然即興演奏をする,となった時に,彼らがどんな振る舞いをするのか。通常,即興プレイヤーというのは,あらかじめ即興演奏することが決められていて会場に向かう。これは謂わば「覚悟の決まった即興」である。しかし,私が聴きたいのはそうではなく、覚悟すらもある意味「即興」で決めねばならず、使い勝手のいい楽器すら手元に無い上で演奏される「真の即興」である,と。

その話の最中,深刻な表情をしたスタッフが指揮者を手招きする。

指揮者はその様子に気づきながらも,話を続ける。しかし,あまりに執拗にスタッフに呼ばれるので,参加者にその場で待つようにお願いしながら会場を一旦でる。

そのまま1分ほど経過した後,指揮者が慌てて会場に戻り,続きを話しはじめる。

深刻かつ非常事態を漂わせたスタッフがスマートフォンを指揮者に渡し,本日来る予定だった演奏者が全員ボイコットし,会場に現れないことを告げる。演奏会が成り立たない非常事態に凍つく空気の中,スタッフは参加者に向かって事情を説明し,代わりに参加者の中で演奏者になっていただけないか,と懇願する。承諾した参加者は,用意された楽器の中から,自ら選び,奏者椅子に着席する。指揮者はそれに狼狽えながらも,参加者が2,3名集まったところで奏者に指示を出しはじめる。

 

その後も,スタッフの呼びかけは続き,段々と奏者が増えてくる。演奏は指揮者の指示が続く限り行われる。そして,演奏が終わると,奏者となった演奏者は,指揮者によって立つように促され,かつて自分が居た客席に向かってお辞儀をする。

以上が作品の内容と流れである。作品は,上記の内容が書かれた指示書(台本),舞台配置図,指揮者用のスコアがある。

用意された楽器は,カスタネット,トライアングル,タンバリン,スレイベル,ミニカホンサンダードラムなどの打楽器,ホース,ゴミ箱,そろばん,メジャー,ブラシ,音だけクラッカーなどの日用品やおもちゃなど,音の出るものを用意した。ちなみに笛類は感染症の観点から,音階を持つ楽器はメロディではなく,音そのものに没入する目的から排除した。

また,参加者の演奏者への転換にも自由度を持たせている。スタッフの呼びかけに応じても応じなくてもその場に居続けられる空気を作ることを意識した。こちらの意図ではないが,怒って帰られたとしても,怒らせてしまったことは申し訳ないと思いつつ,それもすべて受け止めようと覚悟していた。

実際,全4回実施した中で,演奏に参加してくれる人,聴衆として最後まで客席にいる人,途中で帰る人,というこちらが想定していた全パターンが見られた。こちらでデザインしたとはいえ,結果的にドッキリのような演出になってしまったことは最後まで心苦しかった。しかし,やるからには「転倒する愉楽」に本気で挑戦しなければならないと思っていた。不快に思われた参加者の方には本当に申し訳ない,と思っている。ただ,こちらが思った以上に,参加者の反応は良好だったように思う。

その理由の一つが「もっと演奏したかった」という声だった。

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